大阪地方裁判所 平成6年(ワ)7400号 判決 1998年1月29日
大阪市東成区玉津一丁目九番二八号
原告
東邦製鏡株式会社
右代表者代表取締役
井上圭司
右訴訟代理人弁護士
喜治榮一郎
大深忠延
斎藤英樹
大阪府東大阪市松原二丁目一一番三〇号
被告
株式会社リーガル
右代表者代表取締役
魚山義博
名古屋市北区長喜町二丁目三一番地
被告
株式会社大協カトウ商会
右代表者代表取締役
加藤宣勝
大阪府東大阪市大蓮北三丁目一八番三三号
被告
株式会社森田観光
右代表者代表取締役
森田完夫
右三名訴訟代理人弁護士
深井潔
右補佐人弁理士
辻本一義
主文
一 被告らは、別紙目録(二)<1>の肩掛けかばんを製造し、販売してはならない。
二 被告株式会社リーガル及び被告株式会社大協カトウ商会は、連帯して、原告に対し、金二八四五万九七〇〇円及びこれに対する平成八年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告株式会社森田観光は、原告に対し、金一三〇万六七六〇円及びこれに対する平成八年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告の被告らに対する意匠権に基づくその余の金員請求及び不正競争防止法又は民法七〇九条の不法行為に基づく請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを四分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
六 この判決の第二、第三項は、仮に執行することができる。
事実
第一 請求の趣旨
一 被告らは、別紙目録(二)<1>の肩掛けかばん(以下「イ号物件」という)及び同(二)<2>のポシェット(以下「ロ号物件」という)を製造し、販売してはならない。
二1 (主位的主張に基づく場合)
被告らは、連帯して、原告に対し、金三七六二万七八二〇円及びこれに対する平成六年八月四日(被告株式会社大協カトウ商会に対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 (予備的主張に基づく場合)
(一) 被告株式会社リーガル(以下「被告リーガル」という)は、原告に対し、金二一〇四万四一八〇円及びこれに対する平成六年八月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(二) 被告株式会社大協カトウ商会(以下「被告大協カトウ」という)は、原告に対し、金一〇九七万八二四〇円及びこれに対する平成六年八月四日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
(三) 被告株式会社森田観光(以下「被告森田観光」という)は、原告に対し、金五六〇万五四〇〇円及びこれに対する平成六年八月三日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
3 仮執行の宣言
第二 当事者間に争いのない事実
一1 原告は、左記の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という)を有していた株式会社丸加工芸(以下「丸加工芸」という)から昭和六二年一〇月二日その譲渡を受け(昭和六三年一月二五日登録)、現にこれを有している。
登録番号 第六五四三二一号
出願日 昭和五七年三月八日(意願昭五七一第九〇六二号)
登録日 昭和六〇年三月二九日
意匠に係る物品 肩掛けかばん
登録意匠 別添意匠公報記載のとおり
2 また、原告は、別紙目録(一)のクマポシェット(以下「原告物件」という)を製造、販売している。
二 被告リーガルは、業としてイ号物件及びロ号物件を製造、販売している。被告大協カトウは、業としてイ号物件を被告リーガルから買い受けて販売し、被告森田観光は、業としてイ号物件及びロ号物件を被告リーガルから買い受けて販売している。
第三 当事者の主張
(意匠権に基づく請求)
一 請求の原因
1 イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という)は、以下のとおり本件登録意匠に類似するものであるから、被告らがイ号物件を製造、販売する行為は、本件意匠権を侵害するものである。
(一) 本件登録意匠は、次の形状、模様及び色彩からなるものである。
(1) 形状
<1> 本体部分が熊の顔をし、付属部分がその手足・胴体をかたどる肩掛けかばんである。
<2> 本体部分正面は、楕円形状の袋をなし、中央上部の左右に二個の円形の耳部分が接合され、中央に二個のボタン状の目を、中央下部に楕円錐状の鼻・口元部分を有していて、全体として熊の顔を構成し、頭頂部にカバン開口部分(半楕円状のがま口)を有している。
<3> 本体部分底辺には付属袋をなす付属部分が接合され、その接合箇所にがま口が取り付けられて付属袋の開口部をなすとともに、正面上部に蝶ネクタイと二本の手型片、下部に二個の足型片が付され、付属部分全体として熊の手足・胴体部分を構成している。
<4> 本体部分と付属部分は一体として熊の形状を構成し、本体部分上部に肩掛け用のベルトが取り付けられている。
(2) 模様
本体部分の二個の円形の耳部分は上部に三日月形の白抜き模様を、二個のボタン状の目は中央に三分の一円弧状の黒線を、鼻・口元部分は中央に黒円と三分の一円弧状の黒線(二つ連続)を有し、付属部分の足型片は白抜きの円模様を有していて、一体として愛らしい熊の形状を表している。
(3) 色彩
本体部分及び付属部分、肩ひも等は、全体としてつや消しがかかっており、本体部分の耳部分及び付属部分の足型片は一部が白抜きであり、本体部分の目は白色(一部は右(2)のとおり黒色)、鼻・口元部分はベージュ色(中央は右(2)のとおり黒色)である。
(二) イ号意匠は、次の形状、模様及び色彩からなるものである。
(1) 形状
<1> 本体部分が熊の顔をし、付属部分がその手足・胴体をかたどる肩掛けかばんである。
<2> 本体部分正面は、楕円形状の袋をなし、中央上部の左右に二個の円形の耳部分が接合され、中央に二個のボタン状の目を、中央下部に半円錐状の鼻・口元部分を有していて、全体として熊の顔を構成し、頭頂部にかばん開口部分(半楕円状のがま口)を有している。
<3> 本体部分底辺には付属袋をなす付属部分が接合され、その接合箇所にがま口が取り付けられて付属袋の開口部をなすとともに、正面上部に蝶ネクタイと二本の手型片、下部に二個の足型片が付され、付属部分全体として熊の手足・胴体部分を構成している。
<4> 本体部分と付属部分は一体として熊の形状を構成し、本体部分上部に肩掛け用のベルトが取り付けられている。
(2) 模様
本体部分の二個の円形の耳部分は下部に円形の白抜き模様を、二個のボタン状の目は中央に三分の一円弧状の黒線を、鼻・口元部分は中央に黒円と三分の一円弧状の黒線(二つ連続)を有し、付属部分の足型片は黄抜きの円模様を有していて、一体として愛らしい熊の形状を表している。
(3) 色彩
本体部分及び付属部分、肩ひも等は、全体として光沢のある黒色であり(他に赤色などもある)、本体部分の耳部分は一部が白抜きで、付属部分の足型片は一部が黄抜きであり、本体部分の目は白色(一部は右(2)のとおり黒色)、鼻・口元部分はうすいベージュ色(中央は右(2)のとおり黒色)である。
(三) イ号意匠は、以下のとおり、本件登録意匠に類似するものというべきである。
(1) 形状についていえば、両意匠とも、<1><3><4>の点、すなわち、本体部分が熊の顔をし、付属部分がその手足・胴体をかたどる肩掛けかばんであって、本体部分頭頂部及び本体部分と付属部分との接合箇所の二箇所にがま口を有するものであり、しかも、本体部分と付属部分がそれぞれ袋をなしており、それが一体として愛らしい熊の形状を構成している点でほとんど同一である。
ただ、本件登録意匠とイ号意匠とでは、<2>の点、すなわち本体部分の鼻・口元部分が若干異なる(本件登録意匠では惰円錐状をなしているのに対し、イ号意匠では半円錐状をなしている)が、この程度の相違は、両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。
(2) 模様、色彩についていえば、両意匠とも、本体部分と付属部分が一体として愛らしい熊の形状を表すために、本件登録意匠では、全体としてつや消しがかかっており(実施品としては焦げ茶色、紅色などがある)、耳・手・足部分は紅色、鼻・口元部分はベージュ色、首元の蝶ネクタイは黄色であり、イ号意匠では、全体として光沢があり(商品としては黒色、赤色などがある)、耳・手・足部分は赤色、鼻・口元部分はうすいベージュ色、首元の蝶ネクタイは黄色であるが、全体として観察すると同一の印象を与え、かつ、本体部分の耳部分の模様、鼻・口元部分の色合い、付属部分の足型片の色合いが若干異なる程度で、この程度の模様、色彩の相違は両意匠から生ずる美感に差異をもたらさない。
2 被告らは、以下のとおり、イ号物件の製造販売により共同して本件意匠権を侵害したというべきであるから、これにより原告の被った全損害につき、共同不法行為者として連帯して賠償すべき責任を負うものである。
(一) 被告リーガルは、被告大協カトウからデザインの提供を受け、あるいは本件登録意匠の実施品と同種の商品の提供を受けて、本件登録意匠のコピー商品(検甲第一号証の形態のもの。以下「旧イ号物件」という)を製作し、旧イ号物件が本件意匠権を侵害するものであることを知りながらこれを製造し、被告大協カトウ及び被告森田観光に継続して販売してきた。
(二) そして、被告大協カトウは、昭和六〇年二月頃に原告から旧イ号物件の回収と廃棄について申入れを受けながら、これを漫然と放置し、更には旧イ号物件を一部改良したイ号物件への形態変更を被告リーガルに指示した。その上で被告大協カトウは、イ号物件を被告リーガルから仕入れ、現在まで継続して全国の小売店等に販売してきた。
(三) 被告森田観光も、原告物件のコピー商品を製造するよう被告リーガルに指示し、同被告からロ号物件を仕入れ、これを継続的に販売していることからすれば、イ号物件が本件意匠権を侵害するものであることを十分認識し、その上で被告リーガルの製造販売を支援し、あるいは自らの利益を図る目的があったものと推認される。
3 被告らは、昭和六三年一月二五日(原告が本件意匠権の譲渡を受け、その登録を経由した日)から平成八年六月三〇日までの間にイ号物件を次のとおり製造、販売し、それぞれ次の(一)ないし(三)記載の額の純利益を得たものであり、右純利益の額は本件意匠権の侵害により原告が被った損害の額と推定される(意匠法三九条一項)。
したがって、右2の主張に従い、被告らは、原告の被った全損害である(一)ないし(三)の合計額三〇〇〇万七九八〇円について共同不法行為者として連帯して賠償すべき責任を負う(請求の趣旨第二項の主位的主張に基づく場合)。
仮に右2の主張が認められないとすれば、被告らは、それぞれ(一)、(二)又は(三)の額を個別に原告に賠償すべき責任を負う(請求の趣旨第二項の予備的主張に基づく場合)。
(一) 被告リーガルについて
被告リーガルは、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、イ号物件を有限会社タイホー産業(以下「タイホー産業」という)及び上田ビニールから合計一四万一六八四個仕入れ、これと同数のイ号物件を被告大協カトウに対し一個当たり四九〇円で、被告森田観光に対し一個当たり五〇〇円で販売した(別紙「イ号物件仕入・売掛集計」表参照)。
そして、イ号物件の粗利益は、売上高の約三〇%、一個当たり約一五〇円ないし一六〇円であり、被告リーガルのように袋物等を製造し、卸売会社に販売する業態の会社の場合、売上高に占める販売管理費等の割合は五%を上回ることはないから、結局、売上高の二五%をもって純利益の額とみなすべきである。
したがって、被告リーガルが右期間中にイ号物件の製造販売により得た利益の額は、次のとおり一七七一万〇五〇〇円である。
500×0.25×141,684=17,710,500
(二) 被告大協カトウについて
被告大協カトウは、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、イ号物件を一個当たり四九〇円で合計七万八四一六個仕入れてその全部を販売したものであり、その一個当たりの販売価格は七〇〇円以上と推測される(被告大協カトウは、平成八年六月四日付文書提出命令の対象である得意先別元帳、売上元帳、売上伝票を提出しない)。
そして、被告大協カトウのイ号物件一個当たりの粗利益は二一〇円(七〇〇円-四九〇円)であり、売上高に占める販売管理費等の割合は一〇%(一個当たり七〇円)を上回ることはないから、一個当たりの純利益の額は一四〇円である。
したがって、被告大協カトウが右期間中にイ号物件の販売により得た利益の額は、次のとおり一〇九七万八二四〇円である。
140×78,416=10,978,240
(三) 被告森田観光について
被告森田観光は、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、イ号物件を一個当たり五〇〇円で少なくとも合計一万〇一四八個仕入れてその全部を販売したものであり、その一個当たりの販売価格は、被告大協カトウの場合と同じく七〇〇円以上であったと推測される。
そして、被告森田観光のイ号物件一個当たりの粗利益は二〇〇円(七〇〇円-五〇〇円)であり、売上高に占める販売管理費等の割合は一〇%(一個当たり七〇円)を上回ることはないから、一個当たりの純利益の額は一三〇円である。
したがって、被告森田観光が右期間中にイ号物件の販売により得た利益の額は、次のとおり一三一万九二四〇円である。
130×10,148=1,319,240
4 よって、原告は、被告らに対し、本件意匠権に基づき、イ号物件の製造販売の差止めを求めるとともに、損害賠償請求として、主位的に被告らを共同不法行為者として、右3の(一)ないし(三)の合計額である三〇〇〇万七九八〇円及びこれに対する平成六年八月四日(被告大協カトウに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を、予備的に(共同不法行為が成立しない場合)、被告リーガルに対し右3の(一)の一七七一万〇五〇〇円、被告大協カトウに対し同(二)の一〇九七万八二四〇円、被告森田観光に対し同(三)の一三一万九二四〇円及び右同様の遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する被告らの認否
1 請求の原因1の、イ号意匠が本件登録意匠に類似するとの主張は争う。
(一) 本件登録意匠が請求の原因1(一)の(1)の形状及び(2)の模様からなるものであることは認める。同(3)の色彩については争う。
(二) イ号意匠が請求の原因1(二)の形状、模様及び色彩からなるものであることは認める。
(三) イ号意匠は、左記の点で本件登録意匠と相違することにより、本件登録意匠に類似しないというべきであるから、イ号物件の製造販売は本件意匠権を侵害するものではない。
(1) 本件登録意匠では耳に三日月形状の白抜き模様を有するのに対し、イ号意匠では耳内の模様は円形の白抜きである。
(2) 本件登録意匠では耳が本体部分よりその略半分を突出させて設けられているのに対し、イ号意匠では耳が本体部分の外周縁に沿って設けられている。
(3) 本件登録意匠では鼻・口元部が楕円形状であるのに対し、イ号意匠では鼻・口元部は半円形である。
(4) 本件登録意匠では小さな足型状の付属袋が口元部の下にあって斜め下方に向けて延びているのに対し、イ号意匠では小さな足型状の付属袋は口元部の下にあって前方に向けて延びている。
2 請求の原因2及び3の主張は争う。
三 抗弁
1 本件登録意匠の意匠登録には、次の(一)ないし(三)のとおり明白な無効事由があるから、本件意匠権に基づく権利主張は許されるべきではない。仮に許されるとしても、本件意匠権の権利範囲は本件登録意匠と全く同一のものに限定されるべきところ、イ号意匠は、前記のとおり本件登録意匠と同一ではないから、イ号物件の製造販売は本件意匠権を侵害するものではない。
(一) 冒認出願
本件登録意匠の創作者は、実際は原告の代表者である井上圭司(以下「井上」という)であり、丸加工芸の意匠登録願において意匠の創作をした者として記載されている鷲野道雄(以下「鷲野」という)は真実の創作者ではない。
したがって、本件登録意匠の意匠登録は、意匠の創作をした者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたものであり、意匠法四八条一項三号所定の無効事由がある。
(二) 原告自身の展示による出願前公知
井上は、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本(試作品)を昭和五六年一〇月に製作し、本件登録意匠の出願前である昭和五七年一月に、これを展示バスに積み込んで北海道の得意先約二〇〇軒を訪問し、右各得意先に公然と見せて回った(平成七年一二月一九日の口頭弁論期日における原告代表者尋問)。したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において公然知られた意匠であり、意匠法三条一項一号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録には同法四八条一項一号所定の無効事由がある。
井上は、右のとおり本件登録意匠の出願前に自ら右見本を公然と展示した事実を原告代表者尋問において供述していたところ、被告らにこの点を指摘されると、一転して右供述は誤りであり、昭和五七年一月に北海道へ出張したことはなく、右商品(見本ではない)を展示バスに積み込んで北海道へ行ったのは一年後の昭和五八年一月であり、しかも行ったのは井上ではなく、原告の専務取締役である清瀬代栄(以下「清瀬専務」という)であるとの陳述をする(甲六五〔平成八年三月八日付陳述書〕)。しかし、井上は、右甲第六五号証においても、右見本ができたのは昭和五六年一〇月であり、商品の販売時期は昭和五七年三、四、五月頃である等とする供述は否定せず維持しているのであり、右見本を見せて回った時期のみが一年も間違っていたとするのは単なる言い逃れにすぎない。井上の原告代表者尋問における供述は、本件登録意匠の出願前の事情について、一貫して具体的でかつ明確であって、十分信用しうるものであり、右展示の部分のみを否定し、その前後の事情については何ら言及することなくこれを維持する甲第六五号証の記載内容は信用できない。井上と同旨の陳述をしている清瀬専務の陳述書(甲六六)の記載内容も、同様に信用できない。
(三) 被告リーガル及び被告大協カトウによる出願前公然実施
被告リーガル及び被告大協カトウは、以下のとおり、本件登録意匠の出願前である昭和五七年二月から、本件登録意匠に類似する意匠からなる「レザーショルダー 熊(クマ)」という旧イ号物件(検甲一。乙一四〔被告大協カトウ常務取締役近藤勝正作成の陳述書〕添付の写真に写っている品番二二七〇七号の二つの商品のうち上側のもの)を公然と製造、販売していた。
したがって、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法三条一項三号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録には同法四八条一項一号所定の無効事由がある。
(1) 被告リーガルは、昭和五七年二月三日、被告リーガル代表者が昭和五六年末頃に創作した旧イ号物件の製造を委託したタイホー産業から「熊ポシェット」の名称で納入を受け(乙五)、昭和五七年二月一〇日、これを「ベアショルダー」の名称で被告大協カトウに販売し(乙六)、被告大協カトウは、同年三月一日、更にこれを宮城産業株式会社(以下「宮城産業」という)に「レザーショルダークマ(品番二四〇四)」の名称で販売した(乙七ないし九)。
右の「レザーショルダークマ(品番二四〇四)」として取引されていた商品が乙第一四号証添付の写真(昭和六〇年頃に撮影したものと思われる)に写っている品番二二七〇七の二つの商品のうち上側のものであり(なお、下側のものは、僅かに変更を加えた現在のイ号物件である)、品番は、昭和五八年一二月に従来の二四〇四から二二七〇七に変更したものである(乙一四ないし一六)。
(2) また、被告リーガルは、旧イ号物件の製造に供するため、素材であるビニールを打ち抜くための金型である抜型の製作を川瀬商店に依頼し、昭和五六年一一月九日にその納品を受け(乙一九〔加工台帳〕、検乙一〔残存する抜型四点の写真〕)、また、抜型で打ち抜いたビニールを接着するための高周波金型(ウエルダー)の製作を塚本金型に依頼し、昭和五七年一月一一日にその納品を受けた(乙二〇〔仕入・加工台帳〕、検乙二〔現存する金型一七点の写真〕)。右各金型の製造年月日及びその形態からして、これらの金型により製造された製品が本件登録意匠と類似する旧イ号物件(検甲一)であることは明らかである。
2 前記1(三)のとおり、被告リーガルは、昭和五七年二月から、善意で本件登録意匠に類似する意匠からなる旧イ号物件(被告リーガル代表者が昭和五六年末頃に創作したもの)を製造し、被告大協カトウ等に販売しているから、被告らは、本件意匠権について意匠法二九条所定のいわゆる先使用による通常実施権を有している。
四 抗弁に対する原告の認否及び主張
1 本件登録意匠の意匠登録に被告ら主張の無効事由はない。
(一) 冒認出願の主張について
仮に被告ら主張のとおり本件登録意匠の創作者は井上であると評価されるとしても、井上は、丸加工芸の代表取締役である鷲野に対し、鷲野を創作者、丸加工芸を意匠権者として、本件登録意匠について登録を受けることを承認したものであるから、本件登録意匠の意匠登録は「意匠登録を受ける権利を承継した者」の出願に対してされたものである。
そもそも、意匠法四八条一項三号は、真実の創作者に無断で意匠登録がされた場合に、真実の創作者に対し右意匠登録を冒認出願として無効審判を請求することを認めた規定である。被告らのような第三者が右規定に基づいて意匠登録の無効を主張することは、原告代表者の井上が鷲野及び丸加工芸に対して本件登録意匠について登録を受けることを承認すること、ひいては意匠登録を受ける権利を移転することを否定するものであるとともに、意匠登録の無効審判を請求する利益(冒認出願に対する利害関係)を欠くものであって許されない。
(二) 原告自身の展示による出願前公知の主張について
昭和五七年一月(一月六日から二月六日まで)に北海道の得意先回りをしたのは、清瀬専務及び従業員二名であり(甲六二ないし六四)、井上自身は本社ビル建築の準備等で多忙であったため参加しておらず、また、当時本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本(試作品)は完成していたものの展示バスに積み込むには至らなかった(甲六五、六六。販売開始は昭和五七年四月頃)。井上が、原告代表者尋問において、昭和五七年一月に自ら右見本を展示バスに積み込んで北海道の得意先回りをした旨供述したのは、井上は例年一月に商品を車に積み込んで北海道の得意先回りをすることから、昭和五六年一〇月には既に右見本を製作していたので昭和五七年一月にもこれを積み込んでいたと誤信して供述したものにすぎない。
なお、意匠法三条一項一号の「公然知られた意匠」とは、その意匠が、不特定又は多数の者に単に知りうる状態にあるだけでは足りず、字義どおり現実に知られている状態にあることを要するのであり、また、その意匠と特殊な関係にある者やごく偶然的な事情を利用した者だけが知っているだけでは未だ「公然知られた」状態にあるとはいえない。
(三) 被告リーガル及び被告大協カトウによる出願前公然実施の主張について
被告リーガル及び被告大協カトウが、被告ら主張のように本件登録意匠の出願前に旧イ号物件を製造、販売していた事実はない。
(1) 被告ら提出の証拠中、まず、添付写真の「熊ポシェット」(イ号物件)は、タイホー産業が製造して昭和五七年二月三日から現在に至るまで被告リーガルに納入している商品であり、その形態は、加工を開始した当初から現在まで、全く変わりがない旨記載されたタイホー産業(大西徳七)作成の平成六年九月一日付証明書(乙一)、添付写真の子供用ポシェット(イ号物件)は昭和五七年二月から被告大協カトウから「レザーショルダー熊」の名称で仕入れて店頭で販売を開始した商品であり、その形態は販売を開始した当初から現在まで、全く変わりがない旨記載のある青山観光株式会社(以下「青山観光」という)作成の平成六年九月一六日付証明書(乙三)及び宮城産業作成の同月一三日付証明書(乙四)は、被告リーガルが単に自らの立場を正当化するため一方的に作成した書面に、取引先に署名してもらったものにすぎず、取引先が自らの帳簿書類を点検するなどして事実を確認した上で作成したものではないから、全く信用性がない(甲五一、五四)。
また、右各証明書には、商品の形態は加工(販売)を開始した当初から現在まで全く変わりがない旨記載されているが、被告リーガルが当初製造していたのは旧イ号物件(検甲一)であり、その意匠は、イ号意匠とは耳の白抜きの形、鼻・口元の形、鼻の使用材料などの点で異なっており、被告リーガル代表者の供述によれば、旧イ号物件からイ号物件に形態を変更したのは旧イ号物件の製造開始から約四年後ということであるから、右記載は誤りであることが明らかであり、内容の真実性からも信用性に欠けるものである。
(2) 被告リーガル作成の加工台帳のうち加工先がタイホー産業の部分(乙五)には、被告リーガルが昭和五七年二月三日から「熊ポシェット」なる商品を単価一〇〇円でタイホー産業から仕入れていたことが記載されている。しかし、右加工台帳の記載は、その日毎に記入されたものではなく、後日まとめて記入されたものであることが体裁上明らかである上(全体的に詰めて記入され、繰越部分の記載がなく、現金支払後の差引残の記載もない)、右加工台帳の、うち加工先が富士商会の部分(乙一〇)には記載されていない黒、金茶、赤、こげ茶などの色が記載されている。被告リーガルはタイホー産業とは昭和五七年以前から取引があるのに、加工商品のほとんどが「熊ポシェット」というのも不自然である。また、右記載によれば、被告リーガルは昭和五七年二月の時点でタイホー産業から「熊ポシェット」を合計六四三二個(黒一九七八個、赤一九七〇個、金茶一四九七個、こげ茶九八七個)も仕入れたことになるが、当時タイホー産業にわずか一か月の間にこれだけ大量の「熊ポシェット」を加工する能力があったとは考えられない。
被告リーガルの被告大協カトウに対する売上台帳(乙六)には、昭和五七年二月一〇日から「ベアショルダー」を被告大協カトウに販売したことが記載されているが、「熊ポシェット」との記載はないし、前掲乙第五号証の加工台帳には黒、金茶、赤、こげ茶などの色が記載されているのに、色の記載がないか、あっても黒、赤のみであり、販売数量についても、被告大協カトウに対する販売数量が相当量を占めるはずであるのに、乙第五号証記載の前記仕入数量に対して被告大協カトウに対する販売数量がわずかであることも不自然であり、同号証と整合しない。
そもそも右各加工台帳(乙五、一〇)にも、「熊ポシェット」と記載されているだけであり、これが直ちに旧イ号物件を指すものとは考えられない。被告大協カトウに対する売上台帳(乙六)には前記のとおり「ベアショルダー」と記載されているのであり、これらは「熊ポシェット」とは異なる商品であると考えられる(同じ被告リーガルが作成する帳簿に、同一商品に対して同一時期に別の商品名を付すること自体不自然である)。そして、被告リーガルの被告大協カトウに対する昭和六二年八月一四日から平成七年七月三一日までの間の売上台帳には「熊ポシェット」と記載されていて、これはイ号物件を指すと考えられること、現に原告は昭和五一年頃から本件登録意匠にかかる商品の前身であった肩掛けかばんを丸加工芸から同一名称で仕入れていた(甲五八)こと等からすると、昭和五七年二月当時被告リーガルらが扱っていたかばんは、旧イ号物件以外の肩掛けかばんである。
宮城産業作成の仕入台帳(乙七)及び同社が被告大協カトウから受け取った受領書入日記、納品書(乙八、九)には、宮城産業が被告大協カトウから昭和五七年三月一日付で「レザーショルダークマ」一〇個を単価八〇〇円で仕入れた旨記載されているが、被告リーガルが旧イ号物件の製造を委託したのは昭和五九年六月のことであるから、右の「レザーショルダークマ」は旧イ号物件とは別の商品である。
乙第一四号証(被告大協カトウ常務取締役近藤勝正の陳述書)添付の写真は、旧イ号物件が上段に、イ号物件が下段に写っているが、年月日が記載されていない。昭和五八年一二月に品番を変更したというのであれば、その時点で撮影したのなら理解できるが、それから二年近く経過した昭和六〇年の時点で撮影したものであり、しかも、昭和六〇年に形状を変更したのであれば変更後のもののみを品番二二七〇七として撮影すればよいのに変更前のものと一緒に写しており、極めて不自然かつ意図的な写真であって、事後的に作成された可能性が濃厚である。また、昭和五八年頃に品番が二二七〇七に変更された商品がイ号物件であるとしても、旧品番二四〇四が旧イ号物件(写真の上段のもの)を指し、その旧品番が二二七〇七に変更されたものであるとの右陳述書の記載は、これを裏付ける資料がなく、信用できない。
(3) 抜型の加工台帳であるという乙第一九号証には、六点の図形が並んで記載されているだけで名称等の付記すらなく、納品書等の伝票類も存在せず、これが旧イ号物件の各素材の抜型を指すものであるかは不明であり、高周波金型の仕入・加工台帳であるという乙第二〇号証にも、「熊パック 一七点」と記載されているだけであり、これが旧イ号物件の製造に用いられる高周波金型を指すものであるかは不明である。それらの写真であるという検乙第一、第二号証も、右乙第一九、第二〇号証記載の抜型、金型を指すものとはいえない。
(4) 被告リーガルは、当初、本件登録意匠と類似した旧イ号物件を加工委託し、これを販売していたが、昭和六一年頃(被告リーガル代表者の供述によれば当初の製造販売から約四年後)、その形態を変更してイ号物件を製造、販売するようになった。一方、昭和六〇年二月頃、原告は、本件登録意匠の実施品のコピー商品である旧イ号物件が出回っていることを知り、その販売元である被告大協カトウに販売の即時停止と回収を申し入れたところ、被告大協カトウから原告に対し、客からのリピートもまずまずで今すぐには打ち切ることもできないので、原告からの仕入れフオローをお願いする旨の同年三月一日付謝罪文(甲五三の1・2)が届いたが、原告は、右要請を断り、重ねて販売の即時停止と回収・廃棄を申し入れた。このように被告リーガルが商品の形態を変更した時期は、原告が被告大協カトウに対して旧イ号物件の販売の即時停止と回収廃棄を申し入れた時期とほぼ一致することからすると、被告リーガルが商品の形態を変更したのは、旧イ号物件では鼻がつぶれるという機能上の理由(被告リーガル代表者の供述)からではなく、原告から申し入れられた苦情を回避するためであることが明らかである。仮に、被告リーガルが本件登録意匠の出願前から旧イ号物件を製造、販売していたのであれば、被告大協カトウは、原告からの申入れに対してその正当性を主張するはずであった(被告リーガルが最初に製造した旧イ号物件は、被告大協カトウ自身が被告リーガルに製造を委託した製品ということであるから、その主張をするのも極めて容易であったはずである)にもかかわらず、被告大協カトウは、原告に対し何らの反論もすることなく、謝罪の上、本件登録意匠の実施品の注文をしてきたのである。被告大協力トウの右の対応及び被告リーガルによる商品形態の変更は、被告らが本件登録意匠の出願前に旧イ号物件を製造、販売した事実がないことを自ら認めたものというべきである。
(5) また、被告らは、旧イ号物件は被告リーガル代表者が昭和五六年末頃に創作したものであると主張し、被告代表者尋問において同旨の供述をするが、その考案の経緯についての供述は具体性を欠くなど信用できず、後記のとおり、原告は本件登録意匠の実施品と同じ頃(昭和五七年)から原告物件(クマポシェット)を販売しているところ、被告リーガルは、昭和六三年頃から原告物件の形態と類似するロ号物件を製造、販売しているのであり、このことからしても、被告らが本件登録意匠を真似て旧イ号物件を製造、販売していたことは明らかである。
2 被告らが本件意匠権について先使用による通常実施権を有しているとの主張は争う。
右1(三)のとおり、被告リーガル及び被告大協カトウが本件登録意匠の出願前に旧イ号物件を製造、販売していた事実はなく、被告らは本件登録意匠を真似て旧イ号物件を製作したものであるから、被告らが本件意匠権について先使用権を有しないことは明らかである。
(
一 請求の原因
1 原告物件は、北海道等を中心に販売した土産品(置物、たて、文房具)のポッコグマをポシェットに応用して発案したものであって、ポッコグマの顔(丸い顔、丸い耳、笑っているような目、丸い口元を特徴とし、全体に丸みを帯び、愛嬌のある熊の顔)を袋部分全体で表現している点に特徴があり、すなわち、原告物件の特徴としては、<1>ポシェット正面が熊の顔(横一二五mm、縦八〇mm)をかたどっていること、<2>ポシェット本体がフットボール状の袋をなし、その上部がま口で開閉される(開閉幅:一〇〇mm)こと、<3>右<1>の熊の顔が、ボタン状の目、合成皮革片の耳、一体化した鼻と口元で構成され、愛らしい熊を印象づけていること、<4>全体の素材として合成皮革を使用し、その色彩として赤色を使用していることなどが挙げられる。
2(一) 原告は、昭和五七年原告物件を創作し、同年四月その製造販売を開始し、北海道、北関東、北陸、東海、近畿、九州、沖縄等全国各地の土産品店に継続して販売している。その販売数量は、仕入れた商品が全部販売されたものとして、昭和五七年四月から同年九月までの間一万一二八〇個、昭和五七年度(昭和五七年一〇月から昭和五八年九月までの期間をいう。以下、これに準ずる)二万三六五三個、昭和五八年度二万一七二〇個、昭和五九年度一万七八六八個、昭和六〇年度一万三二〇〇個、昭和六一年度九三二四個、昭和六二年度八七二四個であり、その後も毎年約三〇〇〇個である(昭和六三年度一四六四個、平成元年度三三六〇個、平成二年度三七二〇個、平成三年度二四九六個、平成四年度三四〇八個、平成五年度二七一二個)。
(二) 原告は、原告物件を各取引先に宣伝し、見本として店頭においてもらったり、カタログ(甲五)にこれを掲載するなどして、販売活動に努めている。
(三) 右のような販売、宣伝等の結果、原告物件は、遅くとも昭和六三年四月までには、取引者、需要者の間において、前記1のような特殊な形態が原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、全国において広く認識されるに至った。
3 被告リーガルは、昭和六三年四月からロ号物件を製造して被告森田観光に販売し、被告森田観光は、その頃からロ号物件を販売しているところ、ロ号物件の形態は、原告物件の前記1の<1>ないし<4>の形態上の特徴をすべて備え、原告物件の形態と類似するものであるから、ロ号物件の製造販売により、取引者及び需要者において原告物件との誤認混同を生じさせ、原告の営業上の利益を侵害している。したがって、被告リーガル及び被告森田観光によるロ号物件の製造販売は、不正競争防止法二条一項一号の不正競争に該当する。
4 仮に被告らによるロ号物件の製造販売が不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たらないとしても、原告が独自に創作した原告物件を製造、販売することによって営業活動を行っている場合において、被告らがその完全な模倣品であるロ号物件を製造、販売することは、不公正な手段によって原告の営業活動を妨害するものにほかならないから、民法七〇九条の不法行為を構成する。
5 被告らは、以下のとおり、共同して右3の不正競争又は4の不法行為を行ったというべきであるから、これにより原告の被った全損害につき、共同不法行為者として連帯して賠償すべき責任を負うものである。
(一) 被告リーガルは、ロ号物件の製作に当たり、被告森田観光からデザインの提供を受け、あるいは原告物件と同種の商品の提供を受けて、これが原告物件の模倣品であり、その販売が原告の販売利益を侵害することを認識しながら、ロ号物件を製造し、被告森田観光に継続して販売してきた。
(二) そして、被告森田観光も、ロ号物件が原告物件の模倣品であって、その販売が原告の販売利益を侵害することを認識しながら、その製作を遅くとも昭和六三年に被告リーガルに委託し、それ以降継続してロ号物件を同被告から仕入れて、これを販売してきたものである。また、被告森田観光は、自ら不正競争行為を行い、その上で被告リーガルの製造販売を支援し、あるいは自らの利益を図る目的があったものと推認される。
(三) 被告大協カトウについては、その提出する帳簿類による限りロ号物件を販売している形跡は見られないが、前記意匠権に基づく請求についての請求の原因2(二)のとおり本件登録意匠のコピー商品である旧イ号物件を販売し、原告からの申入れ後も一部形態変更をしたイ号物件の販売を続けていること、ロ号物件は、イ号物件を基本に製作され、あるいは原告物件を模倣して製作されているから、被告大協カトウも、その製作、販売に深く関与しているものと推測できること、現実にロ号物件はイ号物件とともに店頭に並べられて販売されていることから、被告大協カトウも、被告リーガル及び被告森田観光によるロ号物件の製造販売が不正競争又は不法行為に該当することを認識し、かつそれを支援しているものであって、共同して責任を負うべきである。
6 被告リーガル及び被告森田観光は、昭和六三年四月一日から平成八年六月三〇日までの間にロ号物件を次のとおり製造、販売し、それぞれ次の(一)、(二)記載の額の純利益を得たものであり、右純利益の額は被告らの行為により原告が被った損害の額と推定される(不正競争防止法五条一項)。
したがって、右5の主張に従い、被告らは、原告の被った全損害である(一)及び(二)の合計額七六一万九八四〇円について共同不法行為者として連帯して賠償すべき責任を負う(請求の趣旨第二項の主位的主張に基づく場合)。
仮に右5の主張が認められないとすれば、被告リーガル及び被告森田観光は、それぞれ(一)又は(二)の額を個別に原告に賠償すべき責任を負う(請求の趣旨第二項の予備的主張に基づく場合)。
(一) 被告リーガルについて
被告リーガルは、昭和六三年四月一日から平成八年六月三〇日までの間に、被告森田観光に対し、ロ号物件を一個当たり二八〇円で四万七六二四個販売した。
ロ号物件の粗利益は、イ号物件と同様、売上高の約三〇%であると考えられ、売上高に占める販売管理費等の割合は五%を上回ることはないから、結局、売上高の二五%をもって純利益の額とみなすべきである。
したがって、被告リーガルが右期間中にロ号物件の製造販売により得た利益の額は、次のとおり三三三万三六八〇円である。
280×0.25×47,624=3,333,680
(二) 被告森田観光について
被告森田観光は、右(一)のとおり、昭和六三年四月一日から平成八年六月三〇日までの間に、被告リーガルからロ号物件を一個当たり二八〇円で四万七六二四個仕入れ、その全部を販売した。
そして、被告森田観光の小売店に対するロ号物件一個当たりの販売単価は明らかでないものの、小売店に対する原告物件一個当たりの販売単価は三一五円ないし三二五円、仕入単価は一九〇円ないし二二〇円であるから、一個当たりの粗利益は少なくとも一二〇円であるところ、被告森田観光がロ号物件を販売した場合の粗利益も右と同程度であると考えられる。また、売上高に占める販売管理費等の割合は一〇%(一個当たり三〇円)を上回ることはないから、一個当たりの純利益の額は九〇円である。
したがって、被告森田観光が右期間中にロ号物件の販売により得た利益の額は、次のとおり四二八万六一六〇円である。
47,624×90=4,286,160
7 よって、原告は、被告らに対し、不正競争防止法二条一項一号、三条に基づき、ロ号物件の製造販売の差止めを求めるとともに、同法四条又は民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償請求として、主位的に被告らを共同不法行為者として、右(一)及び(二)の合計額である七六一万九八四〇円(前記意匠権侵害に基づく損害賠償と合わせると総額三七六二万七八二〇円)及びこれに対する平成六年八月四日(被告大協カトウに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を、予備的に(共同不法行為が成立しない場合)、被告リーガルに対し右6の(一)の三三三万三六八〇円(前記意匠権侵害に基づく損害賠償と合わせると二一〇四万四一八〇円)、被告森田観光に対し同(二)の四二八万六一六〇円(前記意匠権侵害に基づく損害賠償と合わせると五六〇万五四〇〇円)の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の、原告物件の特徴として主張する点は知らない。
2 請求の原因2の(一)、(二)の原告物件の販売、宣伝に関する事実は知らない。
同(三)の原告物件の形態が原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、全国において広く認識されるに至ったとの事実は否認する。
原告物件の形態は、この種商品のデザインに多く用いられる熊を特別変わった形態にしたものではなく、取引者、需要者にとって特別印象に残るものではないから、この商品の形態が出所表示機能を取得することはありえない。出所表示機能は商品のデザイン面とはなじまないものであり、商品形態が出所表示機能を取得したというためには特殊な事情が必要であるが、本件においてそのような特殊な事情は存しない。
原告物件の販売数量も、原告主張の数字を信用するとしても、多く売れた年でも年間一万個ないし二万個という程度では全国の市場にあってほとんど目につかないものであり、商品形態が出所表示機能を取得したとは考えられず、また、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などによる宣伝広告が行われた形跡もないから、原告物件が需要者の間に広く認識されているものとすることもできない。
3 請求の原因3のロ号物件の製造販売が不正競争防止法二条一項一号の不正競争に該当するとの主張は争う。
前記のとおり原告物件の形態は出所表示機能を取得していないから、ロ号物件の製造販売により原告物件との間で誤認混同を生じさせる余地はない。
4 請求の原因4の不法行為、同5の共同不法行為、同6の損害額についての主張は、いずれも争う。
被告大協カトウは、ロ号物件を販売したことはなく、その製作、販売に関わったこともない。
理由
第一 意匠権侵害に基づく請求について
一 まず、請求の原因1、すなわち、イ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かについて検討する。
1 本件登録意匠の願書に添付した図面代用写真(甲六の2)によれば、本件登録意匠は、次の構成からなると認められる。
(1) 熊の顔をかたどった大きな本体部分とその底部に結合する手足・胴体をかたどった小さな付属部分とが一体として熊の形状を構成し、本体上部に肩掛け用のベルトが取り付けられている肩掛けかばんである。
(2) 熊の顔をかたどった本体部分は、
<1> 頭頂部にかばん開口部(半楕円状のがま口)を有する全体として黒っぽい楕円形状の袋をなし、
<2> 正面上部の左右には、上部に三日月形の白抜き模様が施された略円形の耳部分が接合され、
<3> 正面中央には、上向き三分の一円弧状のやや太い黒線が描かれた二個の白っぽい丸い目が設けられ、微笑んでいるような目元とされ、
<4> 正面中央下部には、白っぽい楕円錐状の鼻・口元部分が設けられ、その先端部に、鼻が黒く塗りつぶされた円形で、口元が連続した二つの下向き三分の一円弧状のやや細い黒線で表されている。
(3) 熊の手足・胴体をかたどった付属部分は、
<1> 本体部分との結合箇所に小さな開口部(がま口)を有する全体として黒っぽい付属袋をなし、
<2> 正面上部に蝶ネクタイと二本の手型片、正面下部に白抜きの円模様を有する二個の足型片が設けられている。
なお、原告は、本件登録意匠の構成として、色彩の点も主張するが、右の図面代用写真はモノクロ写真であり、願書に色彩に関する記載もないから、色彩は本件登録意匠を構成するものということはできない。
2 これに対し、別紙目録(二)<1>及び弁論の全趣旨によれば、イ号意匠は、次の構成からなると認められる。
(1) 熊の顔をかたどった大きな本体部分とその底部に結合する手足・胴体をかたどった小さな付属部分とが一体として熊の形状を構成し、本体上部に肩掛け用のベルトが取り付けられている肩掛けかばんである。
(2) 熊の顔をかたどった本体部分は、
<1> 頭頂部にかばん開口部(半楕円状のがま口)を有する全体として黒っぽい楕円形状の袋をなし、
<2> 正面上部の左右には、中央部に円形の白抜き模様が施された略円形の耳部分が接合され、
<3> 正面中央には、上向き三分の一円弧状のやや太い黒線が描かれた二個の白っぽい丸い目が設けられ、微笑んでいるような目元とされ、
<4> 正面中央下部には、白っぽい半円錐状の鼻・口元部分が設けられ、そのほぼ中央に、鼻が黒く塗りつぶされた円形で、口元が連続した二つの下向き三分の一円弧状のやや細い黒線で表されている。
(3) 熊の手足・胴体をかたどった付属部分は、
<1> 本体部分との結合箇所に小さな開口部(がま口)を有する全体として黒っぽい付属袋をなし、
<2> 正面上部に蝶ネクタイと二本の手型片、正面下部に円模様を有する二個の足型片が設けられている。
3 そこで、イ号意匠を本件登録意匠と対比すると、耳部分内の模様が、本件登録意匠では上部に施された三日月形の白抜き模様である(右1(2)<2>)のに対し、イ号意匠では中央部に施された円形の白抜き模様である(右2(2)<2>)との点、鼻・口元部分が、本件登録意匠では楕円錐状である(1(2)<4>)のに対し、イ号意匠では半円錐状である(2(2)<4>)との点が異なり、その余の構成は同じであると認められる。
なお、被告らは、イ号意匠と本件登録意匠との相違点として、本件登録意匠では耳が本体部分よりその略半分を突出させて設けられているのに対し、イ号意匠では耳が本体部分の外周縁に沿って設けられているとの点、及び本件登録意匠では小さな足型状の付属袋が口元部の下にあって斜め下方に向けて延びているのに対し、イ号意匠では小さな足型状の付属袋は口元部の下にあって前方に向けて延びているとの点をも挙げるが、両意匠を対比しても、右の各点について相違点として捉えられるほどの差異があるとは認められない。
しかして、本件登録意匠は、基本的構成態様として、熊の顔をかたどった大きな本体部分とその底部に結合する手足・胴体をかたどった付属部分とが一体として熊の形状を構成し、本体上部に肩掛け用ベルトが取り付けられている肩掛けかばんであるところ、その購入者層は女子、とりわけ就学前の幼児又は小学校低学年程度の女子と考えられるから、右のような肩掛けかばんの基本的構成態様、本体部分を構成する微笑んでいるような愛らしい表情の熊の顔(具体的には、目、鼻・口元の部分の個々の形状及びその配置の仕方)並びに本体部分の頭頂部及び付属部分と本体部分との結合箇所にあるがま口が看者の注意を強く惹くものと考えられる。
イ号意匠は、基本的構成態様が本件登録意匠と同じであり、本体部分を構成する熊の顔の表情を形成する目、鼻・口元の部分の個々の形状及びその配置の仕方が本件登録意匠とほとんど同一といってよいほど酷似しており、本体部分の頭頂部及び付属部分と本体部分との結合箇所にがま口がある点でも本件登録意匠と共通しているから、全体として本件登録意匠と極めて似た共通の美感を起こさせるものというべきであり、一方、イ号意匠と本件登録意匠との相違点のうち、耳部分内の模様についての相違点は、熊の顔の表情に与える影響はほとんどなく、鼻・口元部分の相違点も、楕円錐状といい、半円錐状といっても、その形態の差異自体大きなものではなく、熊の顔の表情に与える影響は極めて小さいものというべきであるから、いずれの相違点も、前記共通点が起こさせる共通の美感に何ら影響を及ぼすものではなく、したがって、イ号意匠は本件登録意匠に類似するものというべきである。
二 右のとおり、イ号意匠が本件登録意匠に類似するものである以上、被告らがイ号物件を製造、販売する行為は、格別の事由のない限り本件意匠権を侵害するものであるから、次に被告らの主張する抗弁について判断する。
1 被告らは、本件登録意匠の意匠登録には明白な無効事由があるから、本件意匠権に基づく権利主張は許されるべきではなく、仮に許されるとしても、本件意匠権の権利範囲は本件登録意匠と全く同一のものに限定されるべきところ、イ号意匠は本件登録意匠と同一ではないから、イ号物件の製造販売は本件意匠権を侵害するものではない旨主張するので、被告ら主張の無効事由について、以下順次検討する。
(一) 冒認出願の主張について
被告らは、本件登録意匠の創作者は、実際は原告の代表者である井上であり、丸加工芸の意匠登録願において意匠の創作をした者として記載されている鷲野は真実の創作者ではないから、本件登録意匠の意匠登録は、意匠の創作をした者でない者であってその意匠について意匠登録を受ける権利を承継しないものの意匠登録出願に対してされたものであり、意匠法四八条一項三号所定の無効事由がある旨主張する。
証拠(甲一、二、六の1・3、五八ないし六〇、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、丸加工芸は、昭和五〇年頃から、パンダ等の動物の顔をかたどった大きな本体部分とその底部に結合する手足・胴体をかたどった小さな付属部分とが一体として動物の形状を構成し、本体上部に肩掛け用の鎖が取り付けられ、本体部分の頭頂部及び付属部分と本体部分との結合部分にがま口が設けられている肩掛けかばん(甲五八の形態のもの)を製造して原告に販売し、原告はそのうちパンダをかたどったものについて「クマペットバッグ」との商品名を付して販売していたところ、井上は、昭和五六年一〇月頃、右「クマペットバッグ」における本体部分・付属部分・鎖・がま口という形態を利用し、当時原告が販売していたたて、置物、カレンダー等の「ポッコグマ」(旭川の民芸品店製作の焼杉グマ「ポッコちゃん」を参考にして原告が製作したもので、丸い顔、丸い耳、笑っている目、丸い口元を有する全体に丸みを帯びた愛嬌のある熊〔甲六〇〕)をベースにして本件登録意匠を創作したこと、原告が丸加工芸に対し、本件登録意匠の意匠登録を受けたいとの意向を述べたところ、丸加工芸が自ら出願人となって意匠登録を受けることを希望したため、井上は、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんは原告が独占的に販売できるという条件で丸加工芸の申出を承諾し、その結果、丸加工芸が本件登録意匠の意匠登録出願をして意匠登録を受けたこと、原告は、本件登録意匠の出願日である昭和五七年三月八日の直後から本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばん(願書添付の図面代用写真のもの)を丸加工芸から仕入れて従前と同じ「クマペットバッグ」との商品名で独占的に販売していたが、丸加工芸が昭和六一年に倒産したため、昭和六二年、丸加工芸の破産管財人から本件意匠権を代金二〇万円で譲り受けたことが認められる。
右事実によれば、丸加工芸は、本件登録意匠の真実の創作者である井上の承諾を得て本件登録意匠の意匠登録出願をしたものであるから、丸加工芸は、本件登録意匠について意匠登録を受ける権利を井上から承継したものということができる。
したがって、本件登録意匠の意匠登録に意匠法四八条一項三号所定の無効事由がある旨の被告らの主張は、採用することができない。
(二) 原告自身の展示による出願前公知の主張について
被告らは、井上は本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本(試作品)を昭和五六年一〇月に製作し、本件登録意匠の出願前である昭和五七年一月に、これを展示バスに積み込んで北海道の得意先約二〇〇軒を訪問し、右各得意先に対して公然と見せて回ったものであり、したがって、本件登録意匠は、その出願前に日本国内において公然知られた意匠であり、意匠法三条一項一号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録には同法四八条一項一号所定の無効事由があると主張する。
(1) 井上は、平成七年一二月一九日の口頭弁論期日における原告代表者尋問において、井上は、本件登録意匠を創作した後、昭和五六年一〇月頃その実施品たる肩掛けかばんの見本を完成し、昭和五七年一月、他の商品とともに右見本を展示バスに積み込んで約一か月の間北海道の得意先二〇〇軒余りを回り、各得意先に右見本等を見てもらい、本件登録意匠の出願日である同年三月八日の直後に本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの販売を開始した旨供述した。
(2) ところが、その後、被告リーガルが、平成七年一二月二八日、右井上の供述を根拠に、本件登録意匠の意匠登録には意匠法三条一項一号、四八条一項一号所定の無効事由等があるとして無効審判を請求した上、平成八年二月一日の口頭弁論期日において、被告らが同旨の主張をするや、原告は、井上の同年三月八日付陳述書(甲六五)を提出したところ、右陳述書には、右(1)の供述中、井上が昭和五七年一月に本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本を展示バスに積み込んで北海道の得意先二〇〇軒余りを回り、各得意先に見てもらったとの部分は、井上がその頃まで毎年のように北海道に営業に出かけていたための勘違いによるものであり、昭和五七年一月に展示バスにより北海道回りをしたのは井上ではなく清瀬専務であり(井上が行かなかったのは昭和五六年秋から昭和五八年春にかけて本社ビル新築工事のため本業を離れていて余裕がなかったからである)、しかも、清瀬専務もその際の展示バスには右見本を積んでおらず、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばん(完成品)を展示バスに積んで北海道の得意先回りをしたのは、同人が翌昭和五八年一月に行ったのが初めてであり、その際井上が積込みの手伝いをした旨記載されており、また、清瀬専務の平成八年三月八日付陳述書(甲六六)にも、清瀬専務は、昭和五七年一月(同月六日から一か月間)に新人の営業社員二名と一緒に展示バスで北海道の得意先回りをしたが(井上が北海道の得意先回りに同行したのは昭和五五年一月までである)、その際、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんは、試作品はでき上がっていたものの、未だ改良点があり未完成であったため展示バスに積み込んで展示するには至らなかったものであって、同人が本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばん(完成品)を展示バスに積んで北海道の得意先回りをしたのは昭和五八年一月になってからのことであり、この時も井上は積込みの手伝いをしてくれただけである旨記載されている。
(3) 証拠(甲六二ないし六四)によれば、原告の出張精算書(甲六二)には清瀬専務、山内、板東の三名が昭和五七年一月六日から二月六日までの間北海道に出張した旨が記載されており、その出張中に同人らが宿泊したホテルの領収書(甲六三、六四)には、いずれも宿泊者が三名(そのうちの一人は板東又は清瀬専務)である旨記載されていることが認められ、清瀬専務ら三名のほかに井上も同行していたとすれば、井上だけが右三名とは別に出張費用を精算し、かつ、井上だけが右三名とは別のホテルに宿泊していたことになって不自然であり、他に原告が清瀬専務らに同行したことを認めるべき積極的な証拠のない本件においては、昭和五七年一月に北海道の得意先回りをしたのは清瀬専務と原告社員二名の計三名であって、井上はこれに同行していなかったものと認められる。
そうすると、前記(1)の井上の供述中、井上が昭和五七年一月に北海道の得意先二〇〇軒余りを回ったとの部分は、前記(2)の同人の陳述書の記載のとおり勘違いに基づくものと認めるほかはなく、また、昭和五七年一月の北海道の得意先回りの際に、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本を展示バスに積み込んでいたとの点についても、これに沿う証拠は前記(1)の井上の供述しかないところ、右供述は、右のとおり井上自身が出張したか否かという基本的な点において勘違いがあるのであるから、採用することができず、したがって、前記(1)の井上の供述に依拠して、昭和五七年一月に本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの見本を展示バスに積み込んで北海道の得意先約二〇〇軒余りを訪問し、右各得意先に対して公然と見せて回ったとの被告ら主張の事実を認めることはできないというべきであり、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
被告らは、井上の前記(1)の供述内容は真実であり、これを否定する井上及び清瀬専務の前記陳述書の記載内容は信用できない旨主張するが、右説示に照らし、採用できない。
(4) したがって、被告ら主張の事実を前提に、本件登録意匠はその出願前に日本国内において公然知られた意匠であり、意匠法三条一項一号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録には同法四八条一項一号所定の無効事由があるとする被告らの主張は、採用することができない。
(三) 被告リーガル及び被告大協カトウによる出願前公然実施の主張について
被告リーガル及び被告大協カトウは、本件登録意匠の出願前である昭和五七年二月から、本件登録意匠に類似する意匠からなる「レザーショルダー熊(クマ)」という旧イ号物件(検甲一。乙一四〔被告大協カトウ常務取締役近藤勝正作成の陳述書〕添付の写真に写っている品番二二七〇七号の二つの商品のうち上側のもの)を公然と製造、販売していたものであり、したがって、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法三条一項三号により意匠登録を受けることができないものであるから、その意匠登録には同法四八条一項一号所定の無効事由がある旨主張する。
(1) 証拠(乙五ないし一〇、被告リーガル代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告リーガルの加工台帳(乙五、一〇)には、被告リーガルが、タイホー産業及び富士商会に対し「熊ポシェット」という商品の加工を単価一〇〇円で依頼し、タイホー産業からは昭和五七年二月三日より継続的に、富士商会からは同月一五日に同商品の納入を受けた旨記載され、被告リーガルの売上台帳(乙六)には、被告リーガルが被告大協カトウに対し、同月一〇日、「ベアショルダー」という商品を単価五一〇円で四〇〇個販売した旨記載され、宮城産業の仕入元帳(乙七)には、同年三月一日、宮城産業が被告大協カトウから「レザーショルダークマ」という商品を単価八〇〇円で一〇個仕入れた旨、被告大協カトウの「受領書入日記」(乙八)及び納品書(乙九)には、被告大協カトウが同日「品番二四〇四 レザーショルダークマ」という商品を宮城産業に単価八〇〇円で一〇個納品した旨記載されていることがそれぞれ認められる。
そして、乙第一号証(タイホー産業の代表者大西徳七作成名義の平成六年九月一日付証明書)には、イ号物件の写真が添付された上、「添付の写真に写っている子供用ポシェットは、当方が製造して昭和五七年二月三日から株式会社リーガルに納入した商品です。この商品の商品名は『熊ポシェット』で、この商品は現在に至るまで続けて加工し、株式会社リーガルに納入しております。またこの商品の形態は、加工を開始した当初から現在まで、全く変わりありません。」と記載されていること、乙第三号証(青山観光作成名義の平成六年九月一六日付証明書)及び乙第四号証(宮城産業作成名義の同月一三日付証明書)には、いずれも、イ号物件の写真が添付された上、「添付の写真に写っている子供用ポシェットは昭和五七年二月から当方の店頭で販売を開始した商品で、仕入先は株式会社大協カトウ商会です。この商品はその後も現在に至るまで続けて仕入れ、販売をしております。この子供用ポシェットは当初から現在までレザーショルダー熊の名称で仕入れ且つ販売しております。また、商品の形態は販売を開始した当初から現在まで、全く変わりありません。」と記載されていることが認められ、これらの証明書の記載によれば、前記被告リーガルの加工台帳(乙五)に、被告リーガルがタイホー産業に加工を依頼して昭和五七年二月三日より継続的に納入を受けた旨記載されている「熊ポシェット」という商品、並びに前記宮城産業の仕入元帳(乙七)、被告大協カトウの受領書入日記(乙八)及び納品書(乙九)に、被告大協カトウが宮城産業に同年三月一日に販売し納品した旨記載されている「レザーショルダークマ」という商品は、いずれもイ号物件と同一形態のものであるということになる。
しかしながら、他方、この点についての原告の問合せに対するタイホー産業の平成六年一〇月八日付回答書(甲五四)には、「先般のクマポシェットの件にて株式会社リーガル様の生産年月日を証明した事に対し、自社にその証明する書類等が有るかとのお問い合せの件ですが自社にしても古い事であり証明する書類等は見当りません。八月中頃の事と記憶しておりますが(株)リーガル様の自社担当の藤井氏が自社の生産した事を証明する昭和五七年二月三日の帳簿のコピーを持って来社され書類に署名捺印と印鑑証明をお願い、する旨伝えられました。」と記載されており、原告代表者及び被告リーガル代表者の各供述によれば、タイホー産業は、昭和五七年当時の被告リーガルとの取引についての帳簿書類等を保管していなかったことが認められ、被告リーガル代表者の供述によれば、同人が改めてタイホー産業代表者大西徳七に対し確認したところ、ずいぶん昔のことで記憶がはっきりせず、昭和五七年三月頃以前から製造しているともしていないともいえない旨答えたことが認められる。宮城産業についても、証拠(甲五六、原告代表者)によれば、原告の従業員が昭和五九年二月頃営業のため宮城産業を訪問した際、同社が本件登録意匠に類似した肩掛けかばんを店頭で販売していることを確認していないことが認められ、また、原告代表者が平成七年四月二六日に宮城産業代表者相澤慎太郎に電話した際の会話内容を録音したものの反訳書(甲五七)によれば、同人は、イ号物件を今から二〇年位前から扱っていると答えている(もしそうであれば、宮城産業は昭和五〇年頃からイ号物件を扱っていたことになる)一方、扱っていたのは鎖の付いた商品であるとも答えており、その記憶は不確かであるといわざるをえない。青山観光についても、当裁判所のした文書(昭和五七年一月一日から昭和六〇年一二月三一日までの間の帳簿書類のうち被告大協カトウに関する記載のある部分)の送付嘱託に対し、「…関係書類の送付を嘱託されましたが、何分古い帳簿のことにて社内を探してみましたが見当たりませんでした。」と回答したことが認められる(甲五一)。
そうすると、タイホー産業、青山観光及び宮城産業が前記乙第一、第三、第四号証のような証明書を作成するについては、昭和五七年二月当時扱っていた商品がイ号物件と同一の形態のものであるとの事実を確認するための調査を行ったわけではないことが明らかであり、かえって被告リーガルの用意した書面に被告らの従業員に言われるままに署名(記名)押印した疑いが強いから、右各証明書の記載は信用することができない。したがって、仮に昭和五七年二月当時、被告リーガルがタイホー産業及び富士商会から「熊ポシェット」という商品の納入を受け、その頃、被告リーガルが「ベアショルダー」という商品を被告大協カトウに販売し、被告大協カトウが宮城産業に「レザーショルダークマ」という商品を販売していたとしても、右乙第一、第三、第四号証によっては当該商品がイ号物件と同一形態のものであったと認めることはできず、他に右の「熊ポシェット」、「ベアショルダー」、「レザーショルダークマ」という各商品がイ号物件ないし旧イ号物件と同一形態のものであると認めるに足りる証拠はない。
被告らは、右の「レザーショルダークマ(品番二四〇四)」として取引されていた商品が乙第一四号証(被告大協カトウ常務取締役近藤勝正作成の陳述書)添付の写真に写っている品番二二七〇七の二つの商品のうち上側のものであり(なお、下側のものは、僅かに変更を加えた現在のイ号物件である)、品番は昭和五八年一二月に従来の二四〇四から二二七〇七に変更したものである旨主張するが、証拠(乙一四ないし一六)によれば、被告大協カトウは、昭和五八年一二月二一日に管理用コンピュータの導入に伴い、全取扱商品の品番を従来の仕入先別の分類から商品の種類、大人用・子供用の別等による分類に変更したものであり(平成五年一二月には更に現在のものに変更した)、変更後の品番二二七〇七の商品が乙第一四号証添付の写真に二二七〇七番として写っている二つの商品(上側が旧イ号物件、下側がイ号物件)であることは窺われるものの、従前の品番二四〇四の商品が変更後の品番二二七〇七の商品と同一の商品であると認めるに足りる証拠はない。
(2) また、被告らは、被告リーガルは旧イ号物件の製造に供するため、素材であるビニールを打ち抜くための金型である抜型の製作を川瀬商店に依頼し、昭和五六年一一月九日にその納品を受け(乙一九〔加工台帳〕、検乙一〔残存する抜型四点の写真〕)、また、抜型で打ち抜いたビニールを接着するための高周波金型(ウエルダー)の製作を塚本金型に依頼し、昭和五七年一月一一日にその納品を受けた(乙二〇〔仕入・加工台帳〕、検乙二〔現存する金型一七点の写真〕)のであり、右各金型の製造年月日及びその形態からして、これらの金型により製造された製品が本件登録意匠と類似する旧イ号物件(検甲一)であることは明らかである旨主張する。
右乙第一九号証には、被告リーガルが昭和五六年一一月九日に川瀬商店から略図で示された七種類の物件各一個の納入を受け、乙第二〇号証には、被告リーガルが昭和五七年一月一一日に塚本金型から「熊パック 一七点 一組」等の納入を受けた旨記載されているが、右七種類の物件及び「熊パック 一七点 一組」が仮に被告ら主張のとおり抜型、高周波金型を示すものであるとしても、検乙第一、第二号証その他本件全証拠によるも、これらの抜型及び高周波金型が旧イ号物件を製造するためのものであることを認めるに足りない。
(3) 以上のとおり、本件全証拠によるも、被告リーガル及び被告大協カトウが本件登録意匠の出願前である昭和五七年二月から本件登録意匠に類似する意匠からなる旧イ号物件を製造、販売していたとの事実は認められないから、右事実を前提に、本件登録意匠は、その意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠に類似する意匠であり、意匠法三条一項三号、四八条一項一号所定の無効事由があるとする被告らの主張は採用することができない。
2 被告らは、被告リーガルは昭和五七年二月から、善意で本件登録意匠に類似する意匠からなる旧イ号物件(被告リーガル代表者が昭和五六年末頃に創作したもの)を製造し、被告大協カトウ等に販売しているから、被告らは、本件意匠権について意匠法二九条所定のいわゆる先使用による通常実施権を有している旨主張するが、前記1(三)のとおり右製造販売の事実を認めるに足りる証拠がないから、右主張も採用することができない。
3 以上のとおり、被告らの主張する抗弁は、いずれもこれを採用することができないから、被告らがイ号物件を製造、販売する行為は、本件意匠権を侵害するものというべきである。
三 そこで、次に、請求の原因2、すなわち、被告らが本件意匠権侵害について共同不法行為責任を負うか否かについて判断する。
1 被告リーガル代表者の供述及び弁論の全趣旨によれば、被告リーガルは、イ号物件の製造販売に先立ち、旧イ号物件を製造、販売していたところ、旧イ号物件(検甲一)は、昭和四五年頃から被告リーガルと取引のあった被告大協カトウが被告リーガルに対し熊の形をしたポシェットを作ってほしい旨依頼し、被告リーガルがそのデザインを決めて製作したものであり、その後、継続的に被告リーガルが製造してこれを被告大協カトウに販売し、被告大協カトウにおいて各地の小売店等に販売していたことが認められ、これによれば、被告リーガルと被告大協カトウとは、旧イ号物件を共同して製作したものと認められ、旧イ号物件の製造販売は、右両被告の共同行為と評価することができる。
被告リーガル代表者は、旧イ号物件は被告リーガル及び被告大協カトウが独自に製作したものであり、その製作時期は旧イ号物件の販売開始時期である昭和五七年二月三日から半年ぐらい前(昭和五六年八月頃)である旨供述するが、前記二1(三)説示のとおり、被告リーガル及び被告大協カトウが昭和五七年二月から旧イ号物件を製造、販売していたとの事実は認められないこと、旧イ号物件の意匠は、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばん(願書添付の図面代用写真のもの)と同一といってよいほど酷似しており、被告リーガル及び被告大協カトウが独自に製作してこのように酷似した肩掛けかばんが偶然にでき上がるとは考え難いこと、証拠(甲五三の1・2、五九、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六〇年一月頃、本件登録意匠の実施品たる肩掛けかばんの販売先から原告の商品であるとして返品を受けた肩掛けかばん(旧イ号物件)が、本件登録意匠の実施品と酷似してはいるものの、これとは異なるものであることを確認したため、これを販売していた被告大協カトウを突き止め、同被告に対し、旧イ号物件は原告が独占的に販売している意匠登録出願中の本件登録意匠の実施品のコピー商品であるとしてその販売の停止、回収を申し入れたところ、被告大協カトウは、旧イ号物件がコピー商品であることを否定せず、直ちに謝罪の意を表し、その後、同年三月一日付の原告宛書簡をもって、「クマショルダーの発注につきましてお願い申し上げます。一旦は広く流しお客様からのリピートもまずまずの状態の中で今直ぐに完全に打ち切ることも出来ない状況の中で、集約に努めながら御社からの仕入れフオローをお願いしたいと存じます。…発注数 二〇〇ケ 大体月二〇〇ケ位の販売予定」として、原告に対し旧イ号物件に代わるものとして原告から本件登録意匠の実施品を仕入れたい旨要請したものの、原告に拒絶されたことが認められ、もし、被告リーガル及び被告大協カトウが本件登録意匠の実施品たる原告の商品の発売ないしは本件登録意匠の出願の前に原告の商品とは関係なく独自に旧イ号物件を製作していたのであれば、原告の右申入れに対しその旨反論するのが自然であることに照らすと、旧イ号物件は、被告リーガル及び被告大協カトウが独自に製作したものであるとする前記被告代表者の供述は採用することができず、旧イ号物件は、本件登録意匠の実施品たる原告の商品の販売が開始された昭和五七年三月より後に、右原告の商品を模倣して製作されたものといわざるをえない。
そして、被告リーガル代表者の供述によれば、被告リーガルは、昭和六一年頃(旧イ号物件の発売から四年ぐらい後)から、旧イ号物件の意匠について、僅かに耳部分内の模様を三日月形の白抜き模様から円形の白抜き模様に、鼻・口元部分を楕円錐状から半円錐状に変更しただけでその他は同一といってよいイ号物件の製造を開始し、被告大協カトウ及び被告森田観光に販売していることが認められるところ、右のとおり、被告大協カトウは、昭和六〇年三月に売行きが比較的好調であった旧イ号物件に代わるものとして原告から本件登録意匠の実施品を仕入れたい旨要請したものの拒絶されたことに照らすと、被告大協カトウは、原告の追及をかわす目的で、旧イ号物件の意匠を変更した肩掛けかばんの販売を企図し、製造元の被告リーガルにその旨を告げ、同被告と意思を通じて旧イ号物件の意匠を僅かに変更しただけのイ号物件を製造、販売するに至ったものと推認することができ、右推認に反する被告リーガル代表者の供述は採用できない。
以上によれば、被告リーガル及び被告大協カトウは、共同して、本件登録意匠に類似するイ号物件を製造、販売し、本件意匠権を侵害したものということができるから、右被告両名は、被告両名による本件意匠権侵害の不法行為によって原告の被った全損害を連帯して賠償すべき責任を負うというべきである。
また、被告大協カトウは、イ号物件の現実の製造行為を行っているものと認めるに足りる証拠はないが、右のとおり被告リーガルと共同してイ号物件を製造、販売しているものと評価することができるから、イ号物件の製造販売の差止めを求める原告の請求は、被告リーガルだけでなく被告大協カトウについても理由があるというべきである。
2 原告は、被告大協カトウと同様に被告リーガルからイ号物件を買い受けて販売している被告森田観光についても、原告物件のコピー商品を製造するよう被告リーガルに指示し、同被告からロ号物件を仕入れ、これを継続的に販売していることからすれば、イ号物件が本件意匠権を侵害するものであることを十分認識し、その上で被告リーガルの製造販売を支援し、あるいは自らの利益を図る目的があったものと推認される旨主張するところ、被告リーガル代表者の供述によれば、ロ号物件については、被告森田観光が被告リーガルに対してラフスケッチを示して製作を依頼したことが認められるが、それだけでは、イ号物件の製造販売まで被告リーガルと被告森田観光との共同不法行為と評価することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告森田観光は、同被告自身による本件意匠権侵害の不法行為によって原告の被った損害(のみ)を賠償すべき責任を負うということになる。
しかし、被告森田観光が右のようにロ号物件については被告リーガルに対してラフスケッチを示して製作を依頼したことからすれば、将来イ号物件を自らあるいは第三者に委託して製造するおそれはあると認められるから、被告森田観光に対してイ号物件の製造販売の差止めを求める原告の請求も、理由があるというべきである。
四 請求の原因3、すなわち、原告が被告らの本件意匠権侵害の行為によって被った損害の額について判断する。
1 原告は、右損害額について、意匠法三九条一項に基づき、被告らが本件意匠権侵害の行為によって得た利益の額が原告の被った損害の額と推定される旨主張するので、被告らがそれぞれ本件意匠権侵害の行為によって得た利益の額について検討する。
(一) 被告リーガルの得た利益の額
(1) 甲第七三、第七四号証(被告リーガルの加工台帳)によれば、被告リーガルは、別紙「イ号物件仕入・売掛集計」表のとおり、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間にタイホー産業又は上田ビニールからイ号物件を一四万一六八四個(同表の「リーガルの仕入数量」欄の合計一五万〇七二九個から昭和六二年中に仕入れた九〇四五個を差し引いたもの)を仕入れたこと(なお、昭和六三年は四月一三日が最初である)が認められる。
一方、甲第六九号証(被告大協カトウの仕入先元帳)、第七〇号証(被告大協カトウの支払明細)及び第七二号証(被告リーガルの被告大協カトウに対する売掛台帳)によれば、被告リーガルは、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、イ号物件を被告大協カトウに対し七万八一七六個販売したことが認められ(昭和六三年については、甲第六九号証〔被告大協カトウの仕入先元帳〕には一二月二二日以降の分一八〇個しか記載されておらず、甲第七二号証〔被告リーガルの被告大協カトウに対する売掛台帳〕には一月二五日以降の分が八〇四〇個である旨記載されているから、同表の「大協カトウ仕入数量」欄の合計七万〇三一六個から昭和六三年一二月二二日以降の分一八〇個を差し引き、右昭和六三年一月二五日以降の分八〇四〇個を加えたもの)、甲第六八号証(被告森田観光の仕入先元帳)及び甲第七一号証(被告リーガルの被告森田観光に対する売掛台帳)によれば、右期間中に被告森田観光に対し一万〇〇五二個販売したことが認められる(甲第六八号証〔被告森田観光の仕入先元帳〕は、昭和六三年から平成三年一一月までの分及び平成八年六月分が提出されていないので、これらについては甲第七一号証〔被告リーガルの被告森田観光に対する売掛台帳〕の記載で補ったもの。但し、昭和六三年は一月二五日以降の分である一六〇八個)。
そうすると、右期間中の被告リーガルの仕入数量一四万一六八四個に対し、被告リーガルの被告大協カトウ及び被告森田観光に対する販売数量の合計は八万八二二八個であって、大きな差があるから、被告リーガルは右被告両名以外に対してもイ号物件を販売しているものと推認されるところ、被告リーガルは、当裁判所の平成八年六月四日付文書提出命令に対し、右被告両名以外の販売先に対する得意先別元帳、売上台帳、売上伝票の提出に応じない。したがって、被告リーガルは、タイホー産業又は上田ビニールからの仕入数量から被告大協カトウ及び被告森田観光に対する販売数量を差し引いた数量は、右被告両名以外の販売先に販売したものとして、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に同期間中の仕入個数と同数の一四万一六八四個のイ号物件を販売したものと認めるのが相当である。
(2) 証拠(甲七一、七二、被告リーガル代表者)及び弁論の全趣旨によれば、被告リーガルは、イ号物件を、被告大協カトウに対しては一個四九〇円で、被告森田観光に対しては一個五〇〇円で販売していたこと、イ号物件の粗利益は売上高の約三〇%であり、被告リーガルのように袋物等を製造し、卸売会社に販売する業態の会社の場合、売上高に占める販売管理費等の割合は、五%を上回ることはないことが認められる。
そして、被告大協カトウ及び被告森田観光以外の販売先に対するイ号物件の販売価格については、前記のとおり被告リーガルはその記載のある帳簿の提出に応じないから、弁論の全趣旨により、一個当たり五〇〇円と認めるのが相当である(被告大協カトウに対する売値が被告森田観光に対する売値より一〇円安いのは、被告大協カトウが大口の販売先であることによると考えられる)。
(3) したがって、被告リーガルがイ号物件を製造、販売することによって得た純利益の額は、次のとおり、一七五一万五〇六〇円と認められる。
{490×78,176+500×(141,684-78,786)}×(0.3-0.05)=17,515,060
(二) 被告大協カトウの得た利益の額
(1) 前記(一)(1)、(2)認定のとおり、被告大協カトウは、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、被告リーガルから七万八一七六個のイ号物件を一個当たり四九〇円で仕入れたところ、被告大協カトウは、当裁判所の平成八年六月四日付文書提出命令に対し、イ号物件の販売価格の記載のある得意先別元帳、売上元帳、売上伝票の提出に応じない。
(2) しかして、乙第七号証(宮城産業の仕入元帳)、第八号証(被告大協カトウの受領書入日記)、第九号証(被告大協カトウの納品書)によれば、被告大協カトウは、昭和五七年三月に宮城産業に対し、「レザーショルダークマ」という商品を一個当たり八〇〇円で販売していたことが認められるところ、右「レザーショルダークマ」という商品がイ号物件ないし旧イ号物件と同一形態のものであると認めるに足りる証拠がないことは前記二1(三)(1)説示のとおりであるが、少なくとも熊をモチーフとした肩掛けかばんであることはその名称から明らかであるから、その価格もイ号物件とほぼ同じであると推認することができる。
したがって、被告大協カトウは、イ号物件を一個当たり原告主張の七〇〇円を下らない価格で販売していたものと認めるのが相当であるから、イ号物件一個当たりの粗利益の額は、右七〇〇円から前記(1)の仕入価格四九〇円を差し引いた二一〇円ということになる。また、弁論の全趣旨によれば、売上高に占める販売管理費等の割合は一〇%を上回ることはないと認められる。
(3) そうすると、被告大協カトウがイ号物件を販売することによって得た純利益の額は、次のとおり、一〇九四万四六四〇円と認められる。
{700-(490+700×0.1)}×78,176=10,944,640
(三) 被告森田観光の得た利益の額
(1) 前記(一)(1)、(2)認定のとおり、被告森田観光は、昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間に、被告リーガルから一万〇〇五二個のイ号物件を一個当たり五〇〇円で仕入れたところ、被告森田観光は、当裁判所の平成八年六月四日付文書提出命令に対し、イ号物件の販売価格の記載のある得意先別元帳、売上元帳、売上伝票の提出に応じない。
(2) しかして、被告森田観光も、前記(二)(2)の被告大協カトウの場合と同じく、イ号物件を一個当たり七〇〇円を下らない価格で販売していたものと認めるのが相当であるから、イ号物件一個当たりの粗利益の額は、右七〇〇円から右(1)の仕入価格五〇〇円を差し引いた二〇〇円ということになる。また、弁論の全趣旨によれば、売上高に占める販売管理費等の割合は一〇%を上回ることはないと認められる。
(3) そうすると、被告森田観光がイ号物件を販売することによって得た純利益の額は、次のとおり、一三〇万六七六〇円ど認められる。
{700-(500+700×0.1)}×10,052=1,306,760
2 右1のとおり、本件意匠権侵害の行為により、被告リーガルは一七五一万五〇六〇円、被告大協カトウは一〇九四万四六四〇円、被告森田観光は一三〇万六七六〇円の利益を得たところ、意匠法三九条一項により右利益の額は原告の被った損害の額と推定される。
そして、前記三において説示したところに従い、被告リーガル及び被告大協カトウは、右被告両名による本件意匠権侵害の不法行為によって原告の被った全損害を連帯して賠償すべき責任を負うから、右被告両名は、被告リーガルの行為により原告が被った損害一七五一万五〇六〇円及び被告大協カトウの行為により原告が被った損害一〇九四万四六四〇円の合計二八四五万九七〇〇円を連帯して賠償すべき責任を負うというべきであり、被告森田観光は、同被告の行為により原告が被った損害一三〇万六七六〇円(のみ)を賠償すべき責任を負うというべきである。
したがって、本件意匠権侵害の不法行為に基づく原告の被告らに対する損害賠償請求は、右の限度で理由があり、その余は理由がないというべきである。
なお、遅延損害金の利率は、右損害賠償請求権が不法行為に基づくものであるから、原告主張の商事法定利率年六分ではなく、民法所定の年五分によるべきであり、また、遅延損害金の起算日については、原告は、訴状送達の日の翌日とするが、訴訟係属中に請求を拡張し、損害賠償請求の対象とする期間を訴状送達後の期間も含む「昭和六三年一月二五日から平成八年六月三〇日までの間」としているから、右期間の末日である平成八年六月三〇日とするのが相当である。
第二 不正競争防止法に基づく請求等について
一 原告は、原告物件は、北海道等を中心に販売した土産品(置物、たて、文房具)のポッコグマをポシェットに応用して発案したものであって、ポッコグマの顔(丸い顔、丸い耳、笑っているような目、丸い口元を特徴とし、全体に丸みを帯び、愛嬌のある熊の顔)を袋部分全体で表現している点に特徴があり、すなわち、原告物件の特徴としては、<1>ポシェット正面が熊の顔(横一二五mm、縦八〇mm)をかたどっていること、<2>ポシェット本体がフットボール状の袋をなし、その上部がま口で開閉される(開閉幅:一〇〇mm)こと、<3>右<1>の熊の顔が、ボタン状の目、合成皮革片の耳、一体化した鼻と口元で構成され、愛らしい熊を印象づけていること、<4>全体の素材として合成皮革を使用し、その色彩として赤色を使用していることなどが挙げられるとし、販売、宣伝等の結果、原告物件は、遅くとも昭和六三年四月までには、取引者、需要者の間において、右のような特殊な形態が原告の商品であることを示す出所表示機能を取得し、全国において広く認識されるに至った旨主張する(請求の原因1及び2)。
商品の形態は、本来、商品の機能を効率的に発揮させ、あるいは商品の形態上の美感を高める等の目的で選択されるものであり、本来的に商品の出所を表示することを目的として選択されるものではない。しかしながら、商品の形態が他の業者の商品と識別できるだけの特徴を有している場合には、その商品が特定の主体により相当の期間独占的に大量に販売されるとか、商品の形態自体について強力に宣伝広告がされる等の事情により、第二次的に特定の主体の製造、販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、周知性を獲得することがある。そこで、このような見地から、原告物件の形態が原告の製造、販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、周知性を獲得したか否かについて、以下検討する。
1 原告物件の形態は、争いのない別紙目録(一)及び弁論の全趣旨によれば、全体として赤茶系統の合成皮革からなる熊の顔の形をした小型フットボール状の袋である本体部分(正面横幅一二五mm、縦幅八〇mm)とその上端部二か所に接続された長い肩掛け用の紐部分とで構成されるポシェットであって、本体部分は、頭頂部に開口部(がま口)を有し、正面上部の左右には中央に白抜き模様が施された略円形の耳部分が接合され、正面中央には上向き三分の一円弧状のやや太い黒線が描かれた二個の白っぽい丸い目が設けられ、微笑んでいるような目元とされ、正面中央下部には白っぽい楕円錐状の鼻・口元部分が設けられ、その先端部に、鼻が黒く塗りつぶされた円形で、口元が連続した二つの下向き三分の一円弧状のやや細い黒線で表されている、というものであり、本体部分正面の熊の顔は、耳部分、目、鼻・口元部分が本件登録意匠の本体部分正面の熊の顔とほぼ同じであり、ほぼ同じ表情をしているものと認められる。
なお、証拠(甲五八、六〇、被告代表者)によれば、熊、パンダ等の愛らしい動物をモチーフにしたいわゆるファンシーグッズ(ポシェット、肩掛けかばん等を含む装飾品)自体は、かなり以前から見られるものであることが認められる。
2 証拠(甲五の1~3、七ないし四九、五〇の1ないし3、五九、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の(一)及び(二)の各事実が認められる。
(一) 原告は、昭和五七年、自ら原告物件を製作し、同年四月、製造(加工)委託先の丸加工芸から原告物件を仕入れてその製造販売を開始し、丸加工芸倒産後の昭和六二年三月頃からは絹美工芸から、絹美工芸倒産後の平成二年三月からはタイホー産業から、それぞれ原告物件を仕入れてこれを北海道を中心として、北関東、北陸、東海、九州等各地の土産物店、ホテル、旅館等に販売した。
その販売数量は、昭和五七年四月から九月までの間一万二七九一個、昭和五七年度(昭和五七年一〇月から翌昭和五八年九月までの期間をいう。以下これに準ずる)二万四八〇八個、昭和五八年度二万一七一六個、昭和五九年度一万七八六八個、昭和六〇年度一万三一九八個、昭和六一年度九三二〇個、昭和六二年度九一六八個、昭和六三年度一四六四個、平成元年度三三六〇個、平成二年度三七二〇個、平成三年度二四九六個、平成四年度二四〇〇個、平成五年度三六〇〇個である(但し、昭和五七年度及び昭和六二年度を除き、仕入れた商品はすべて販売されたものとして仕入数量により計算したもの)。
(二) 原告は、昭和五九年頃、原告物件を含む原告の製造、販売する各商品を撮影した写真を八枚並べてとったカラーコピーを一ページとして数十頁綴じ合わせた形式のカタログ(甲五の1~3)を作成し、これを各地の土産物店、ホテル、旅館等大口の得意先一〇〇軒ないし一五〇軒に送ったことがあるものの、その他の宣伝広告活動はしていない。
3 以上の認定事実によれば、(1)原告物件の本体部分正面の熊の顔の形状は、耳部分、目、鼻・口元部分が本件登録意匠の本体部分正面の熊の顔とほぼ同じであり、ほぼ同じ表情をしているところ、本件登録意匠の本体部分の熊の顔の形状は、当時原告が販売していたたて、置物、カレンダー等の「ポッコグマ」(旭川の民芸品店製作の焼杉グマ「ポッコちゃん」を参考にして原告が製作したもので、丸い顔、丸い耳、笑っている目、丸い口元を有する全体に丸みを帯びた愛嬌のある熊)をベースにして創作したものであって(前記二1(一))、独自性がそれほど高いものではなく、加えて、熊、パンダ等の愛らしい動物をモチーフにしたいわゆるファンシーグッズ(ポシェット、肩掛けかばん等を含む装飾品)自体は、かなり以前から見られるものであり(原告代表者自身、原告物件にかかる意匠について本件登録意匠のように意匠登録出願をしなかった理由は、原告物件の単価が安いことと、本件登録意匠と比べてあまりアイデア性がないことであると供述する)、(2)原告物件の販売数量も販売開始直後の昭和五七年度、五八年度には年間二万個を超えたが、その後年々減少して昭和六一年度には一万個を切り、昭和六三年度以降は更に激減して二〇〇〇個台ないし三〇〇〇個台にとどまっており、(3)その宣伝広告の方法についても、昭和五九年頃に原告物件を含む原告の製造、販売する各商品を撮影した写真を八枚並べてとったカラーコピーを一ページとして数十頁綴じ合わせた形式のカタログを作成し、これを各地の土産物店、ホテル、旅館等大口の得意先一〇〇軒ないし一五〇軒に送ったことがあるものの、その他の宣伝広告活動はしていない、というのである。
したがって、原告物件の形態は、他の業者の商品と識別できるだけの特徴を有しているといえるか疑問であるのみならず、原告物件が相当の期間独占的に大量に販売されたとか、商品の形態自体について強力に宣伝広告がされた等の事情があるとも認められず、冒頭の説示に照らし、第二次的に原告の製造、販売する商品であるとの出所表示機能を取得し、周知性を取得したということはできない。
4 そうすると、原告の被告らに対する不正競争防止法二条一項一号、三条及び四条に基づくロ号物件の製造販売の差止請求及び損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由のないことが明らかである。
二 原告は、仮に被告らによるロ号物件の製造販売が不正競争防止法二条一項一号の不正競争に当たらないとしても、原告が独自に創作した原告物件を製造、販売することによって営業活動を行っている場合において、被告らがその完全な模倣品であるロ号物件を製造、販売することは、不公正な手段によって原告の営業活動を妨害するものにほかならないから、民法七〇九条の不法行為を構成する旨主張する(請求の原因4)。
しかし、他人の商品形態を模倣した商品を販売するなどの行為は、その商品形態が特許権、意匠権等の知的財産権によりあるいは不正競争防止法により保護されるなどの場合を除き、それだけで直ちに民法上違法な行為として不法行為を構成するものではなく、不法行為を構成するというためには、ことさら他人の商品との誤認混同を生じさせて自己の利益を図り又は他人に損害を被らせることを意図するなど、不正な競争をする目的で、他人の商品形態をそっくりそのまま模倣し、他人の販売先に積極的、集中的に販売するなど、当該商品の市場における公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法をもって、他人に営業上、信用上の損害を被らせたというような特段の事情の存することが必要であると解すべきところ、本件全証拠によるも、被告らがポシェット等の市場における公正な競争秩序を破壊する著しく不公正な方法をもって、原告に営業上、信用上の損害を被らせたというような特段の事情の存在は認められないから、被告らによるロ号物件の製造販売行為は、未だ民法七〇九条の不法行為を構成するものとはいえない(但し、被告大協カトウについては、ロ号物件を販売したとの事実自体を認めるに足りる証拠がない)。
したがって、原告の被告らに対する民法七〇九条の不法行為に基づく損害賠償請求も理由がない。
第三 結論
以上のとおりであるから、原告の被告らに対する本件意匠権に基づく請求は、主文第一ないし第三項掲記の限度で認容し、その余の金員請求を棄却し、原告の被告らに対する不正競争防止法又は民法七〇九条の不法行為に基づく請求を棄却することとし、主文のとおり判決する(平成九年七月三日口頭弁論終結)。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田中俊次 裁判官 小出啓子)
目録(一)
左記写真のとおりのクマポシェット
<省略>
目録(二)<1>
左記写真のとおりの肩掛けかばん
<省略>
目録(二)<2>
左記写真のとおりのポシェット
<省略>
日本国特許庁
昭和60年(1985)6月24日発行 意匠公報(S)
B4-1 AB
654321 意願 昭57-9062 出願 昭57(1982)3月8日
登録 昭60(1985)3月29日
創作者 鷲野道雄 大阪市東住吉区照ケ丘矢田3丁目21番7号
意匠権者 株式会社丸加工芸 大阪市東住吉区照ケ丘矢田3丁目21番7号
代理人 弁理士 佐々木功 外1名
審査官 伊藤晴子
意匠に係る物品 肩掛けかばん
この意匠は図面代用写真によつて表わされたものであるから細部については原本を参照されたい
<省略>
イ号物件仕入・売掛集計
H8.11.25訂正
<省略>
※平成8年7月9日、同年10月20日付け被告提出文書に基づく
※仕入数量のうち、平成6年以降は上田ビニール
意匠公報
<省略>